【EURO 2016】 データ de 反省会 vol.3 ~攻撃パフォーマンス編~
間が空いてしまいましたが、前回、前々回に引き続いてEURO 2016をデータで振返ります。
欧州ではそろそろ新シーズンが始まります。EURO 2016で見えたトレンドが各国リーグの戦いにどの程度影響を及ぼすのか。。そこら辺もデータで言及できたら。
■データ提供元 :UEFA EURO 2016 - Statistics - Team statistics - UEFA.com
上記UEFA/EURO 2016 のStatisticsのページ、「ATTACKING」と「PERFORMANCE」の項のデータを主に用いての分析・可視化です。
前者はゴール、シュート、相手陣内・アタッキングゾーン侵入、コーナーキック等の指標。後者はパス数、パスの種類、クロス数、ポゼッション率などの指標です。
まずは、ゴール数・シュート決定率の指標の可視化から。
【図1 EURO 2016 1試合あたりの平均得失点数・シュート決定率 ランキング】
棒グラフが得失点数、折れ線がシュート決定率です。こちらは国毎にランキング形式で並べていて、得失点差降順(得点>失点が高い順)にしています。数値は1試合あたりの平均値。軸は上が得失点、下側が決定率です。シュート決定率は加工した指標で、下記式にて算出しています。
[ ゴール数(Average) / シュート数(Attempts per game) * 100 (%) ]
ランキングは、フランス、ウェールズ、ポルトガル、イタリアと並んでいますが、「シュート決定率」に目を向けると、ポルトガルの高さが突出している(20%超え)。PKによる得点はない(ロナウドが確か外してましたね ^^;)なかでのこの数値はかなり高い。初出場で8強入りしたアイスランドも得失点はビハインドも平均得点数は1.5超、決定率も12%超。
この後の可視化で言及しますが、ドイツやスペインなどボールを保持してゲームを進めることをコンセプトとする国もシュート決定率に目を向けると実は低く、いずれも10%以下。様々言われているように、今大会は中堅ながら守備的な戦術を高度化させた国が躍進したことと一致する結果に。
それから人とボールの相手陣内への侵入・到達回数のデータもあり、それらとゴール数~シュート数との関係をば、見るための可視化を以下に。
【図2アタッキングサード侵入回数 × 同ボール到達回数と平均ゴール数・シュート数 】
ちょっと凝った散布図にしてしまったのですが、アタッキングサードへの人の侵入「Solo run into attacking third」を横軸、ボールの到達/送り込んだ回数「Delivelies into attacking third」を縦軸に取り、各国毎の散布図の箱を設け、それぞれ布置する座標に◯印をプロットしました。◯印の大きさが「1試合あたりの平均ゴール数(Goals per game)」、色の濃さ/透過度の濃い方が平均シュート数(Attempts per game)が多く、薄いと少ない。
見方としては◯が右方向にあると、人がアタッキングサードへ回数多く走りこんでいて、上方向にあるとボールを回数多く送り込めている。右上にあれば、人もボールも相手ゴール近くに送り込めたことを示しています。
同じく◯印が大きいとゴールを多く上げている傾向にあり、色が濃いとシュート数も多い。多くシュートを打ち、ゴールとなっていれば大きく濃い色の◯。薄くて大きい場合は少ないシュートながらゴールが多い。小さいとゴールが少なく、色が濃いとシュートは打てどゴールには結びついていないことを示します。
これをペナルティーエリアという、より相手ゴールに近いゾーンに絞るとどうなるかというのが下記の可視化。
【図3 ペナルティエリア侵入回数 × 同ボール到達率と平均ゴール数・シュート数】
図2と比較するといくつか変化のみられる国が。
ドイツはアタッキングサードでの散布図では、人の侵入に対してはボール到達数はさほど大きくはなかったのに対し、図3ペナルティーエリアになると、人の侵入回数でもボールの到達回数でも右上を占めています。同じ傾向なのは、スペインも同様。しかし、ドイツのこの布置の変化は特筆すべきポイントかと。
アタッキングサードではそこまででも、ペナルティエリアで特にボールの送り込みが突出するということは、ゾーンを飛ばすスルーパスやミドルパスで最前線の選手に通していたということが考察できます。
中盤の底のクロース、または最終ラインのフンメルスやボアテングら足元の技術に優れた後方の選手からパス1本でゾーンを切り裂くというシチュエーションが思い浮かびます。
図2から高残りしているのが、ハンガリーやルーマニア。強固な守備から鋭い攻撃を繰り出す両国ならではというか、カウンターアタックによる走り込み・ボール運びを示唆しているのかなと。
図1の傾向と合わせると、ポルトガルやウェールズ、アイスランドはここの可視化ではあまり上位に布置していない。回数多くは相手のゾーン侵入はしていないながらも、高い決定率を示しているあたり、少ないチャンスをモノにできた、あるいはセットプレーによる得点が多かったなどかなぁと(ベイルの直接FKとかね)。
続いてパスのパフォーマンス比較。
こちらも同じ見方で可視化を(スミマセン、手抜きです ^^;)
【図4 ポゼッション率 × パス成功率と平均ゴール数・シュート数】
横軸にポゼッション率、縦軸にパス成功率、◯印の大きさ、濃さ/透過度については、前述図2、3と一緒です。
パス成功率が高ければ、自ずとポゼッション率は高くなる...相関ニアリーな関係かと思いますので、◯印が高い国はそうしたロジックに当てはまるかと。さらには◯印が濃い、さらに大きいということは、パスを繋いでポゼッションを確保しつつ相手の守備をかいくぐってシュートまで持ち込めた、果てはゴールまで陥れることができた、と言えるかなと。
ドイツ、スペイン、それからスイスなどがパス成功率→ポゼッション率の相関が見えます。が、スイスは◯が濃くなく、大きさもあまり...よってパスで相手を崩してシュート、またはゴールを奪うことは傾向としてあまりできていなかった、と。
イングランドはシュートまではそこそこ打てども、そこまでゴールを陥れられなかったようです。
反対に左下、すなわちパス成功率が低い→ポゼッションが保持できない国は、北アイルランド、アイスランドなど。とはいえアイスランドに関して言えば、◯印の大きさは小さくなく、ボールポゼッションでビハインドも少ないチャンスを決めきって8強まで上り詰めたことが分かります。
同じような見方でクロス数、クロス成功率の可視化も。
【図5クロス数 × クロス成功率と平均ゴール数・シュート数】
横軸にクロス数、縦軸にクロス成功率を。◯印は従前どおり。
右上に行くほどクロスを多用しつつ、味方に合わせることに成功している国。右下は多用しながら味方に合わせることができていない国。左側はそもそもクロスをあまり駆使していないことを表します。
特筆すべきはアイスランドがクロス成功率でトップなこと(33%)。試行数、すなわちクロス本数は多くなく(総数40本。1試合あたり8本)、いかに少ないクロスをきっちり味方に合わせてチャンスを作ったかが伺い知れます。次点のクロアチア(成功率29%・平均28本)は試行数も多いので、やはりアイスランドの数値は特筆ものですね。
クロス精度を欠いて有効に活用できなかったのが、チェコ、アルバニア、オーストリアなど。守備組織が整えられた国が多い中、守備陣の視線を横方向に振らせる、ウォッチャーになるシーンを作ることができるクロスの活用は、強固な守備攻略のひとつの方策だと思うのですが、アイスランドの躍進の要因の一端はこのクロス成功率なのかなと思いました。
駆け足でEURO 2016のデータ可視化を試みてみました。
実際の試合を観た印象、ウェールズやアイスランドが8強に進んだ事実。コンテのイタリアがスペインを破った試合。そして、決勝戦のポルトガルがフランスを破った試合など、守備が目立つ、ひいては守備戦術の高度化が見えた大会だったのかなと。
その中で少ないチャンスを決めきる決定力、そこに至る過程としてのゾーン侵入やパス成功率、ポゼッション率、はたまたクロス成功率など。
サッカーはボールゲームなので、ボールを握った陣営がゲームを動かすことができるわけですが、それがそうした数値、傾向そのままにゲーム結果が反映されるわけではないのがサッカーの面白いところ。
前回のスペインが連覇した2012年のポーランド・ウクライナ大会までは、ポゼッション優位のトレンドから、レバークーゼンやドルトムントに見られるゲーゲンプレスのようなポゼッション破壊戦術、またはシメオネ監督のアトレティコ・マドリードにみられる頑強かつ統制された籠城守備戦術、それらとボールを奪ってから素早く相手のゴールを陥れるポジティブ・トランジションからアタッキングシステムへの移行が意思統一されたチーム、国が少ないチャンスをモノにして結果を手にしていくのかなと。
とはいえ、W杯ブラジル大会で守備的システムを採用したファン・ハールのオランダなんかは今大会の出場を逃しており、世代交代と相まってやや低迷期を迎えていたりしていて、攻撃と守備、相互トランジションのシステムと戦術のトレンドは移り変わっていくのかなと。
まもなく欧州リーグが幕を開け、新しいトレンドの一端が見えるのかどうか。やはり注目はペップ・グゥアルディオラとアントニオ・コンテが新たな舞台に選んだプレミアリーグ。ここが新たな戦術トレンドの中心源になりそうな予感がします。
と、つらつら締めで文字数割いてしまいましたが、今後も面白いデータの可視化を心がけていきます。
では、また!!