【EURO 2016】データ de 反省会 vol.2 ~守備パフォーマンス編~
前エントリに引き続き、EURO 2016 をデータでいろいろ振り返ってみようと思います。今回は各国の「守備」について。
■データ提供元 :UEFA EURO 2016 - Statistics - Team statistics - UEFA.com
上記UEFAのサイト、データの「DEFENDING」の項にある指標を以下に羅列します。
◆Tackles (タックル) :相手ボールホルダーへのスライディングタックル数
◆Balls recovered (ボールゲイン) :被ポゼッションからボールポゼッションを回復した数
◆Blocks (ブロック) :シュートブロック数
◆Clearances (クリア) :ボールを危険域から安全域へ大きく蹴り出した回数
上記項目がどういったプレー場面のものか、もう少し細かく整理・定義したいので、下記にちょっとサッカーのプレーの整理を。。
サッカーはボールゲームですので、自分たちがボールを持っている局面(ポゼッション)と、持っていない局面(被ポゼッション)があり、両局面が入れ替わってゲームが展開します。それぞれ、ポゼ/被ポゼ時のプレーは攻撃/守備とに分けられますが、このボールをめぐる局面の入れ替わる瞬間、これをトランジション(ボールの移行・入替り)と呼んだりしますが、それぞれボールを失う/奪われる瞬間(ネガティブ・トランジション)、ボールを得る/奪う瞬間(ポジティブ・トランジション)に分けられます。
ポゼ/被ポゼ、ポジトラ/ネガトラがぐるぐると繰り返されるのがサッカーというゲーム。本来は切れ目ないプレーの連なりですが、前述のように区切った場合、下記のようなサイクルになります。
ポゼッション :攻撃
ネガティブ・トランジション :攻撃 → 守備 の切替わり
被ポゼッション:守備
ポジティブ・トランジション :守備 → 攻撃 の切替わり
ポゼッション :攻撃
・・・以降、繰り返し
今エントリでは、「守備」のパフォーマンス、とりわけ上記のサイクルで言うところの、被ポゼッション、ポジティブ・トランジションのステップに該当するかなと。
それぞれ、
被ポゼッション時 :タックル、クリア、ブロック
ポジティブ・トランジション :ボールゲイン
イメージは、相手の攻撃に対して ⇒ 〈タックル/クリア/ブロック〉 ⇒ ボールゲイン/ボール回収、のような流れかなと。
本来であれば、もう少し細かい指標が欲しいところですが、ざっと上記のようなプレー局面と指標のマッピング、紐付けで分析をしたく思います。
前置きに字数を割きましたが、いつもの可視化を下記に。
【図1 タックル × ボールゲイン × 失点数 1試合あたり平均 散布図】
【図2 クリア × ボールゲイン × 失点数 1試合あたり平均 散布図】
【図3 ブロック × ボールゲイン × 失点数 1試合あたり平均 散布図】
一気に3つの可視化、複合散布図を置きました。3つとも縦軸にボールゲイン、横軸にそれぞれ、タックル数、クリア数、ブロック数をそれぞれ置いて、平均失点数を円の大きさで表しました。
ここで見たかったのは、先ほどの「被ポゼ→ポジトラ/守備 ⇒ 守から攻への切替わり」へ局面がシフトするところでのパフォーマンスと失点との関係を見たかったということ。
散布図なので、右上に行くほど各守備時のアクション(タックル/クリア/ブロック)と、ボールゲインとの関係が強くなります。
エクスキューズとしては、必ずしも守備時各アクションの結果、ボールゲインになったわけではないということ。恐らく「タックル→こぼれ球→敵が再度回収」のような場面もあれば、「クリア→ラインアウト→敵スローインで再開」もあるはずですので、悪しからず。各今大会平均値はそれぞれ下記の通り。
タックル数 :3.1回
クリア数 :18.9回
ブロック数 :3.5回
ボールゲイン:42.0回
まず、図1「タックル→ボールゲイン」で見ると、クロアチア、アルバニア、チェコの順でタックル試行数が多いものの、チェコだけはボールゲインが平均を下回っています。ちなみに平均失点数も、クロアチア(4)、アルバニア(3) < チェコ(5)。
ボールゲインの低い象限では、チェコ(あとウクライナ、トルコも...?)が外れ値のような布置で、ボールゲインが高い象限ではドイツ、ポルトガルがちょっと外れ値っぽい。
ドイツに関しては、今回の可視化/分析で高いボールゲインながら各守備時アクションとの関係が見えなかった国でした。図2、図3でもドイツはちょっと異端。。
図2の「クリア→ボールゲイン」では、クリア試行数はポルトガルが平均くらいで右にいる各国がそれ以上のクリア数かと。ボールゲインはフランスが平均値くらいでそれ以上の国がゲイン数が高い。
クリア数ではアイスランドがトップで、ゲインもやや高い。ポーランド、ウェールズ、イタリアと続いていて、ゲインの軸では特にウェールズがクリア数との相関が高い。ポルトガルもクリア数が平均ながらゲインは高い。それぞれベイル、ロナウドと前線に優れたアタッカーを擁し、ボールの収まり所として機能していたのかなと窺い知れるかと。
翻って左上、クリアは少ないのにゲインが高い国がドイツ。アルバニアも同じ象限ですが、ドイツのクリアの少なさ、ゲインの高さは突出している。高いボールポゼッションと正確なパスワークが光ったドイツならではなのかなと。自陣でのプレーでも安易にクリアを選択せず、繋ぐプレーを是とする戦い方が反映されているのかもしれません。
図3は「ブロック→ボールゲイン」。先の2つに比べて守備時のアクションにおいては最も危機回避度が高いのかなと。守備網を崩されてシュートモーションに入られて最後の抵抗としてブロックを繰り出す。そんな感じでしょうか。
アルバニア、ポーランド、スロバキアが6回以上のブロックを記録。その次にアイスランド。ゲインも同順で高くなっています。イングランドがもっともブロック数が少なく(0.75)、先の2つのアクションでも低水準。しかし失点数は平均1なので、ここは今回の分析ではなかなか言及しづらい部分。
散布図上側に目を向けると、ウェールズ、ドイツ、ポルトガルと4強の国々が布置していることが分かります。それぞれ平均並のブロック数ですが、ゲインは高め。ここでもドイツのゲインの高さが目立つ。やはりこれら3つの守備時アクションとは別のプレーでボールを回収、または奪回できているのではと推察されます。
最後に前エントリのゴールキーパーのパフォーマンスとの絡みでもうひとつ可視化をば。
【図4 ブロック × セーブ × 失点数 1試合あたり平均 散布図】
ブロック数とセーブ数を散布図で。右にいくほどブロック数が多く、上に行くほどセーブ数が多い。両軸が多いということはそれだけシュートを撃たれているということなので、評価が難しいのですが、ポーランド、スロバキアなんかはピンチ時にDFもGKも高パフォーマンスを発揮したと言えなくもないかなと。
初出場のアイスランドも同じく守備陣の頑張りが数値としても光っているかなと。
守備に関する指標が限られた中で、プレー局面との定義と合わせて可視化をしてみましたが、EUROより多く指標が得られるJリーグなんかも今回のようなプレーがシフトする流れを意識して可視化してみても面白いかなと思いました。
また、ボールプレーにおいて正確にプレーする傾向が強いドイツなんかは、今回のような守備時のスタッツではなかなかその本質が見えづらいということも分かりました。そもそも守備機会が少ないということも言えますし、スタンドプレーでボール回収や奪回ができているのかなと。失ってからすぐ奪い返す、相手のミスを誘発するプレスやポジショニングなど、なかなか数値には表れづらい強さの秘密があるのでしょう。
次回は「アタッキング」についてのパフォーマンスを可視化します。
では、また!!