【ジェフ千葉】あの奇跡の7連勝のとき、一体何が起きていたのか? ~「船山システム」の正体をデータでおさらい~
【公式】プレビュー:ジェフユナイテッド千葉vsカマタマーレ讃岐 明治安田生命J2リーグ 第5節 2018/3/21
開幕4戦勝利なしで勝ち点1の21位。
「予想していなかった」どころか、「予想の真裏」に臥せってしまっているおらがジェフユナイテッド。
前回の緊急エントリでは10節までに16ポイント勝ち点を積めれば、自動昇格までまだ望みはあると申しましたが、残り6節で15ポイント、つまり5勝は必要という星勘定に追い込まれました。
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前節徳島戦も開始13分で溝渕が決定機阻止のハンドの判定でレッドカード退場。
誰かがいない時間が、ここまで全試合時間中の81%にもなっているというYahoo! Headlineに恥ずかしい記事が踊ってしまったここまでのジェフ。
「まずは11人で試合をする」というのは当たり前としても、ここまでの戦いを振り返ると昨季の7連勝時の勢いと強さは見る影もなくなってしまっており、あの時の並びでもある4-2-3-1(通称、船山システム)に戻せー!という声もあったり。
頑なに4-3-3(アンカーシステム)に拘っているようにも見えるエスナイデル監督のこと、私はこの先もアンカーシステムを継続するのではないかと思っていますが、今一度昨季終盤の強さ、勢いを産んだこの船山システムとは何だったのかをデータから紐解いてみたくなりました。
あの頃は良かったなぁ~という気持ちでお読みいただくのが最良。その中でも今季この最悪とも言える現状に活かせそうなエッセンスも皆さまで読み取っていただければと存じます。
データはご覧の提供でお送りします。
昨季、後に「船山システム」と呼ばれる4-2-3-1(並びは4-4-1-1とも)が採用されたのは、J2第36節ホーム岡山戦から。
熊谷アンドリューの件の出場停止措置により、アンカー役が不在となったため代役による4-3-3ではなく、中盤をCH2枚(佐藤勇人&矢田旭)、トップ下に清武功暉(実は最初は彼だった。試合途中から船山にチェンジ)を置く中央の[3]をひっくり返した三角形の形に変更。
この前のアウェイ京都戦もアンドリューは不在でしたが、並びは4-3-3でアンカーに佐藤勇人が入ったもののゲームは敗戦。
PO圏に食い込む最後のチャンスとも言えるタイミングでのシステム変更だったのです。
この試合以降、第39節アウェイ大分戦でアンドリューが戻っても船山システムは継続。チーム新記録の7連勝でご存知の通り、最終節の奇跡のPO滑り込みを果たしました。
そんな最終盤の怒涛の連勝を含めて、昨季第1節から最終節までの「30mライン進入成功率」、及び相手チームの同スタッツ(被30mライン進入成功率)の推移を下記に。
【図1】ジェフ千葉 30mライン進入成功率/被進入成功率 のシーズン推移(17年)
何故、「30mライン進入成功率」をグラフ化したのか?
ここでは載っけませんが、手元にあった昨季のデータをいくつか眺めた結果、このスタッツの点線部分に顕著に傾向が出ていたからなのです。
30mラインとは、相手ゴールラインから測って30mの位置のこと。所謂、バイタルエリアとも言い換えられるゾーン。
そこにボールを送り込めたプレーをカウントして、全攻撃回数(ボール前進)を母として割ることで、「30mライン進入成功率」としました。
シーズンを通じて言える傾向は、ジェフの場合ハイプレス&ハイライン戦術によって相手陣内でプレーをする時間を長くしようとするため、自ずと30mライン進入が、被進入よりも多くなるということ。
可視化でも自明の通り、青線がオレンジの線よりも上側に位置している試合がほとんどです。
それが、点線でマークした昨季ラスト7節、つまり「船山システム」を採用した試合では、その差が殆どなく逆転している試合もあるというそれ以前にはあまり見られなかった傾向が7節固まっていることが分かるかと。
これはつまり、相手陣内へ押し込む頻度が多い一方で自陣バイタルエリアへの進入を殆ど許さなかったこれまでの試合から、自分たちが相手バイタルエリアへ進入するのと同じくらい相手にバイタルエリアへの進入を許した試合へと変化した事を意味します。
つまり、「それまで一方的に相手を殴っていたやり方から、相手にも殴らせるようなやり方に変えた」ということ。
普通に考えれば、一方的に殴り続けるやり方の方が強いイメージを抱きますよね?
ところが、一方的に殴り続けても相手を倒し切るまでには至らず、反対にカウンターパンチを喰らって一撃で返り討ちに遭う展開が少なくなかったのが、昨季船山システム以前までのジェフだったかと。
相手にも殴らせるようになったら、相手を倒せるようになった、というのはどういうことなのか、次項から詳しく見ていきます。
【図2】ジェフ千葉 36節以前と以降の攻撃歩留り率/被歩留り率 比較(17年)
昨季全42節を第1節~35節と第36節~42節に分けて、攻撃における歩留り率と対戦チームの同歩留り率(ジェフにとっては被歩留り率)を上下に併記。
上がジェフ、下に対戦相手をとりました。
グラフ右側に行くほどゴールに近づくアクションの効率を指しています。
ジェフ側から見ていくと、青の7連勝前までは「30mライン進入成功率」が35.4%という数値。ジェフの攻撃/ボール前進の実に35%が相手バイタルエリアまで持ち込めているということ。これはかなり高い数字でして、ハイプレス&ハイライン戦術の破壊力のバロメーター。
ただ、ここの数値が高かろうと相手を倒し切れる訳ではないことは、前述の通り。
「シュート到達率」より先の指標を見ていくと、船山システム採用以降が軒並み高くなっています。シュート到達率はほぼ同水準も「枠内シュート到達率」、「決定率」は40%に迫ろうかという数値。
下側の対戦相手を見ていくと、30mライン進入成功率は35節までは僅か18%。
3回に1回以上はバイタルエリアに持ち込めるジェフに対して、5回に1回もジェフゴール前へ運べないということ。これはジェフに自陣に押し込められてしまう、裏に蹴り出してもオフサイドに掛かってしまう等、ハイラインによってボール前進を阻まれている事の証左。バイタルエリアへまともにボールを送り込めない故にシュート到達率も10%に満たない数値に。
ただ、被枠内シュート到達率、被決定率は40%という水準に跳ね上がっている。
これが所謂ハイライン裏を突かれての失点によって築かれたジェフの脆さの象徴のような数値。
一方で、船山システム採用以降は「30mライン進入成功率」は2割弱から3割弱へ上昇も、ジェフの泣き所だった被枠内シュート到達率、被決定率はそれ以前の水準に比べると大幅に減じられている。
まさに、相手に殴らせるようになったことで、相手を倒せるようになった、という図式ができあがっているのです。
【図3】ジェフ千葉 36節以前と以降の詳細パス・スタッツ 比較(17年)
相手に殴らせるようになったことで、相手を倒せるようになった、をジェフと相手のパス数の変化から見ようと、図3にパス数をAPT(アクチュアル・プレーイングタイム)で割った値を1分あたりのパス本数、攻撃回数1回あたりのパス本数、それらの差をポゼッション回復のパス本数と3つの指標に加工して、それぞれ図2と同じ見方で可視化しました。
今度は相手チームの様子から伺っていきます。
試合が動いている時間のパス数、1分あたりのパス本数は、6.0 → 7.7 と、1本ないし2本に増加。連動してポゼッション回復のパス本数も 3.8 → 5.0 に増えています。
ただ、攻撃1回あたりのパス本数は、2.2 → 2.8 へと増加幅はそこまで大きくはなっていません。
35節までの対戦相手は、基本的にジェフのハイプレスによってパスワークが制限されていたものと思います。手元の計算ながら、シーズンアベレージでは対ジェフ千葉戦におけるパス成功率は普段のゲームよりマイナス11%ほど低くなっていました。
それが、船山システム採用以降はその制限されていたパスが増加している。これはつまり、ジェフがハイプレスで追い回すことをやめた、あるいはプレッシングを緩めたとも言える。ただ、攻撃時のパス数はそれほど増えておらず、肝心なところはジェフがきっちり制限を掛けていたことが伺えます。
翻っておらがジェフ。
シーズンアベレージでは、なんとAPT1分あたり10本ものパスを繋ぎ、うちポゼッション回復に7本、アタッキングにも3~4本のパスをかけていたジェフ。
それが、船山システム採用以降はポゼッション回復のパス数が5本台に減って、他の対戦チームとほぼ同水準に。
先程の図2と合わせると、手数を掛けずにより高い枠内シュート到達率や決定率を実現できていたということに。
過度なハイプレスを控えることで、相手のボール前進をある程度は許容するも、相手攻撃における有効なゾーンへの対応は怠らず、逆にカウンターを効果的にゴールに結びつけていたということが考察できそうです。
ここまでアタッキング、ゴール奪取の好循環について見てきましたが、実は船山システムが奏功した最重要ポイントでもある、失点数減についても触れておこうかと思います。
【図4】ジェフ千葉 36節以前と以降の守備アクション試行率 比較(17年)
見方は図2、図3と同じです。
注目すべきは、ジェフ側の「クリア試行率」の変化。
船山システム以前と以降とで、実に10%近くもの開きがある。
ボールポゼッションを優先し、被攻撃時も蹴り出さずに繋ぐ傾向が高かったそれまでと、ハイプレスを控え構えて守るように切り替えた船山システム以降では、これまで見てきたように自陣内ゴール前でプレーする機会も自ずと増えます。
故に危険なゾーンに送り込まれたボールは繋がずに安全圏へと蹴り出すようになったということ。
これは船山システムの構造によるものでしょう。つまり、
→ ハイプレスを控える
→ 前掛かりにプレスしないからラインも上げない
→ ラインが下がるから相手は前進する
→ 前進されるから自陣内でのプレーが増える
上記のような展開が増えたということ。
ハイプレスでの前傾守備をしないということは、中盤の3枚を逆三角形にしてIHを前に2枚出すよりも、1枚下げて2CHでCB前にスクリーンを敷く方が相手のゾーン進入を防御できます。
4-3-3での泣き所である、アンカー脇のスペースが無くなり、リスクを軽減できるという訳です。
IHが1枚削られてプレス要員が減る訳ですが、ここに機動力のある船山を置くことで、それまでサイドに置かれていた時は片方のサイドしかプレスに行けなかったのを、中央から左右のボールサイドへ追い込む役割にすることで、進入してきた相手を常時監視してコースを限定するプレスを行うことができるように。
その背後で熊谷と佐藤勇人という球際での戦闘能力が高い2枚のCHがボールを刈り取り、為田&町田&船山&ラリベイによる反転速攻の起点に。
この構造は先程まで見てきた攻撃の好循環にも繋がってきて、
→ 相手が前進してくるので、相手の背後にスペースができる
→ 奪って相手の背後にボールを送れば効果的な速攻の形に
この相手の背後を取ってのカウンターは、松本山雅戦、福岡戦、大分戦などで頻繁に見られました。
こうして見ていくと、アンドリュー不在というスクランブルがきっかけとしてあったかもしれませんが、許容できるリスクを冒しつつ、その分のリターンは余りある程にきっちり得られたのだなということが分かるかと。
ジャブすら打たせずひたすら殴り続けるやり方から、ジャブ程度なら打たせても構わない、ガードを怠らず相手が崩れたところでカウンターを繰り出してダウンを奪うやり方へ...
今まで自分たちが倒されてきたやり方を一部取り込んで、逆に相手を倒してきた様子があの奇跡の7連勝時の姿として浮かんできます。
さて、ここまでは去年の話。
問題はいま、18年シーズンのスタートに完全に失敗したこの苦境です。
整理すると、何人かは今季補強した選手に入れ替わっている点、並びが4-3-3になっていること、ハイプレス&ハイラインはそのまま、その結果4節終えて未だ未勝利で勝ち点は僅か1の21位...原因と思える要素が全てネガティブに絡み合ってしまっているとも考えられます。
そんな中でも手当てできることはあるはず。
2年目のハイプレス&ハイラインに対して、相手も千葉対策を厳重にしてきています。それなのにデジャヴのように過度なハイプレス&ハイラインが継続されて、構造的欠陥をまんまと突かれて今の結果に陥っているように見受けられます。
なので、私個人が思いつく今できる次善の策のひとつは、常時ハイプレス&ハイラインをやめること。その上で、並びを2CH、「船山システム」に戻してみること、この2点です。
私は個人的にはハイプレス&ハイラインには肯定的です。
ただ、90分常時その戦術一辺倒で勝てるほどJ2リーグは甘くないことは、今の結果が説得力を持って我々に突きつけています。
昨季優勝を飾った湘南ベルマーレの戦いを見て思ったのは、J1昇格に近づくために必要なのは、「柔軟性」であるという事。
相手を伺い、その強みと弱みを的確に読んで、自分たちのスタイルと照らし合わせる。相手の強みは挫き、弱みを徹底的に突くやり方を準備段階から試合の中、時間経過やスコア変動に応じて変化させながら戦う柔軟性こそ、J1へと這い上がる強さの原動力と思います。
岐阜戦の先制点のような形がハイプレス&ショートカウンターの典型、ジェフ千葉の狙った形ではあるでしょう。
しかし、いつ、どんな時間帯、スコア状況においてもあのようなプレス→ショートカウンターを狙いに行くのは、賢いやり方をは到底思えない。
今季開幕してからのジェフは、とにかくハイプレスで突撃して相手のミスを誘発、ボールを奪ってショートカウンターからのゴールを狙いすぎています。
戦術はツールであって、そのツールも万能ではない。
ハイプレス&ハイラインも使うべきところで賢く使うべき。
しかも大きなリスクを掛けるやり方なのですから、使い方を間違えると痛いしっぺ返しが来ることは自明。
あの奇跡の7連勝が船山システムへの戦術変更だけで成し遂げたとは思いませんが、有効だったことは間違いないでしょう。
昇格を期すシーズンで目論見から大きく外れた状況を回復させるためにも、今もっとも有効的なやり方を監督以下コーチ陣には寝る間も惜しんで編み出してもらいたい。
前回のエントリでの勝ち点計算では、幸い序盤であることからまだまだ昇格に間に合います。
ただし、それにはリミットもあります。私はその第一のリミットを京都戦に置いています。それまでにもまだ勝てない状況であるならば、いろいろとクラブには考えていただきたいかな、と。
そうなっては欲しくないので、何としても意地を見せて欲しい。
明日の讃岐戦でその意地が観たいです。
では、また!