【ジェフ千葉】水戸ホーリーホック戦レビュー 〜千葉がハマってしまう落とし穴をデータで現場検証〜
2017明治安田生命J2リーグ 第19節
水戸ホーリーホック 3 - 1 ジェフユナイテッド千葉
得点者:橋本晃司 39' / 佐藤和弘 46' / 林陵平 62' / 清武功暉 92'
【DAZNハイライト】2017.6.17 明治安田生命J2リーグ 水戸ホーリーホック vs. ジェフユナイテッド千葉
アウェイ4連敗。6月、未だ勝利なし。順位も15位まで後退し、勝ち点差も首位より降格圏の方が近づいてきているという状況。
アウェイで敗れている試合の内容を遡ってみても、同じようなパターンの繰り返しのように見えてしまって、チームとして改善や成長の跡がほぼ見えない現状を目の当たりにする度に、この先も同じような光景を繰り返すことになるのか?と、不安が拭いきれないままシーズン終盤までつきまといそうな気配でして、益々アウェイが堅くこじ開けられない重い鬼門になっていくのではないかなと。
特に今節の相手・水戸ホーリーホックもそうですが、同じくアウェイで大敗を喫した相手、横浜FCや松本山雅FCなど、自らパスを繋いでクリエイティブなサッカーをやるというよりも、陣形をセットして中盤から後方で構えて守り、奪ってからカウンターを繰り出す「リアクション型」のチームにまんまと嵌められている、おらがジェフユナイテッド。
今回はそうした千葉を陥れて大勝を果たした「リアクション型」J2仕様のチームについて、対千葉戦の戦い方がどのようなものだったかをレビューし、その狙いを考察したいと思います。
データはご覧の提供でお送りします。
水戸の西ケ谷監督は、自ら指揮するチームをレアルやバスセロナではなく、「アトレティコ・マドリー」に近いとインタビューで語っていました。
「ポゼッションする(ボールを支配する)事に興味がない」と語るのはアトレティコ・マドリーを率いるアルゼンチン人指揮官、シメオネ監督の弁。
奇しくも同じアルゼンチン人指揮官で、シメオネ同様代表選手でもあった、おらがジェフユナイテッドのエスナイデル監督の掲げるスタイルとは真っ向相容れない流儀をラ・リーガの舞台で貫いています。
これは、もうサッカーに対する哲学、思想の違いからくるものなので、どちらが正しいのかという議論はあまり意味がないと感じます。
しかし、Jリーグ、ラ・リーガの違いはあれど、チームを率いる者としてどのようなチームを作り、リーグ戦というコンペティションを戦っていくのかを考えるとき、ボールを持って自らアクションして相手を崩していくのか、ボールを持つ事よりも相手のアクションに対するリアクションによって相手を挫くのか、どちらのアプローチで臨むのか(あるいはその両方をバランス良く取り入れるか)、基本的な指針として持っておく事は正当なやり方に思えます。
どちらを選択するかは監督の主義 /流儀によるところもあると思いますが、自チームの選手の能力や特徴を見定めた上で、どちらの方針で臨むかを決めるというアプローチもあるかと。
J2では恐らく自チームの選手の質とリーグ全体のレベルを踏まえた上で、それら方針を決めている指揮官が多勢なのではないかと思えます。
水戸の西ケ谷監督、横浜FCの中田監督、そして松本の反町監督ら、他の「持たざるクラブ」の多くの監督と同様、自前の限られた選手層とその選手らの能力を鑑みて、「出来ない事はやらない」と決めた上で「でき得る事をとことん極める」というアプローチでチームを構築しているのではないかと思います。
そうしたチームは、「持てるクラブ」であるジェフ千葉をどのように屠ったのか……(書いてて辛い
その辺りを下記可視化を順に見て考察していきます。
【図1】クリア数の対千葉戦パフォーマンス
まずサンプルとして3失点以上喫した3チームについて(思うところあってヴェルディは除きました)、クリア数のシーズン平均と千葉戦との差分を青い棒グラフで。折れ線の施行率は、千葉の攻撃回数に対してどの程度の割合で発動されたのかを示す指標でして、これをシーズン平均と千葉戦とで描きました。
一律に同じ傾向が出なかったのですが、前節水戸が顕著なように対千葉戦におけるクリア数が突出してます。
水戸のクリア数が50超えてるんですよね。千葉のアタッキングに対して、跳ね返す事に徹してる。繋ぐのではなくこぼれ球勝負、セカンドボールワークに賭けてたんだなぁと。拾って二次攻撃出来なかったのと、拾われた後の切り替えでも出足で水戸の後れを取ったのが痛かった。
— Nobuhiro Kankura (@kan_nov) 2017年6月20日
千葉の攻撃に対して、普段より20回も多くクリアをしている。被攻撃3回のうち1回を安全圏へ大きく蹴り出すアクションを選択。
繋ぐことを放棄しているとも思える守り方ですが、実際の試合ではこのクリアのこぼれ球を拾う局面で千葉の出足を上回っていた印象。
この可視化では横浜FCのパフォーマンスが出色かなと思えます。クリア数も施行率も普段より低く抑えられた上で無失点&4得点上げてるわけですからね……
通常、守備時にクリアを選択するという事はプレーが切れるか、再び相手に回収される事にも繋がるため、自ずとボール保持やパス数、そしてパス成功率は下がるはず…という事でそのあたりを次の可視化で確認しました。
【図2】パス数/パス成功率の対千葉戦パフォーマンス
図2はパス本数でのシーズン平均と千葉戦との差分、同成功率の差分をグラフに。
前エントリでハイプレスの効果として、相手のパススタッツを軒並み減じる事に効果を上げていると申しましたが、この3チームとの対戦でもその傾向は例外なく現れていました。
しかし、この3チームのような「持たざるクラブ」、即ち「リアクション型」のチームに対してパスプレーを制限したとしても、実際はあまりダメージになっていないのではないか……というあたりを次の可視化で見ていきます。
【図3】攻撃回数/ボール支配率の対千葉戦パフォーマンス
図3ではボール支配率と攻撃回数について、シーズン平均と千葉戦との差分を取ってグラフ化。
黄色い折れ線がシーズン平均のボール支配率なのですが3チームとも40%台という事で、対千葉戦に限らずJ2の他のチームとの試合でも軒並みボールを相手に持たれることに慣れているチームという事が言えます。
ボール支配の傾向が強い千葉相手では、その数字が更に押し下げられるのですが、注目は青い棒グラフの攻撃回数でして、これもシーズン平均と千葉戦との差分を表します。
この攻撃回数、松本は微減、水戸はほぼ差がなく、横浜FCに至ってはボールを普段より持てないにも関わらず攻撃回数は千葉相手の方が普段より多く繰り出せている。
ただし、千葉にボールを支配され陣地もほぼ自陣に釘付けになる時間が増えている事から、赤い棒グラフが示す千葉側陣地の30mラインへの進入頻度は軒並み減じられる事にはなっています。
それでも、何故複数得点を奪えているのか…その答えが次の図4でして…
【図4】シュート・スタッツの対千葉戦パフォーマンス
シュート・スタッツについて、これまで同様にシーズン平均と千葉戦との差分を可視化。棒グラフはシュート数、枠内シュート数の差分で、折れ線はその効率性を見るための指標。
シュート到達率は攻撃回数を母として、どの程度の割合で到達できたかを示し、枠内シュート到達率はシュート数のうちどの程度枠内に飛ばせたかを示す指標。
シュート数は図3で見たように千葉のゴール前まで進入する頻度が減っているわけなので、軒並み少なくなってはいます。
千葉にとってのボトルネックは、枠内シュート数でして、数少ない被シュートにも関わらず容易に枠内に飛ばさせてしまっている事こそが大きな問題かなと。
もちろん、ハイラインという戦術的構造故に最終ラインを突破された時には後方にGKしかいない場面も多いかとは思いますが、ここでシュートブロックやコース限定の対応ができていれば防げた失点も多かったのではないかなと。
水戸戦で後半1分経たないうちに失点した場面も横浜FC戦での野村選手のゴールのリプレイのようでしたし、林選手の3点目もヴェルディ戦の3失点目と状況的には被るようにも見えます。
簡単にシュートに持ち込まれすぎている問題というのは昨季から引き続き改善されておらず、ハイラインによって相手をゴールから遠ざけられている分被シュート数自体は減っているので、失点も減っていておかしくないのですが、何故かそうはなっていない…
これは意識の問題なのか、それとも改善のための手当てをトレーニングしていないのか、選手の能力の問題なのか、それぞれ分析した上で検証と解決を図るべきと思います。
そうでないと、同じようなパターンで失点を繰り返し、勝ち点を逃しては益々順位も落ちていくという最悪のシナリオになりかねない。
ハイラインをやめれば防げるという意見もTLなどで見かけますが、果たしてそうなのか?被シュート数の頻度はむしろハイラインによって減っているように思えるので、別のところに問題があるように私は思います。
シーズンも残り2節で折り返しを迎えます。
首位とは10ポイント以上離されているため、これを巻き返すとなるとかなり厳しいと言わざるを得ないですが、全てのチームともう一度戦う機会が残されてもいます。
アウェイで大敗した相手にホームで再び敗れる訳にはいかないですし、同じような失点、同じような敗戦の光景は見たくないです。
負ける事はこの先もあるでしょうが、何か改善の跡や成長の兆しが見えるものであってほしい。
チームの進歩をデータで確かめられる時が訪れると信じて、引き続きジェフをサポートし、データでもウォッチしていこうと思います。
では、また!