【ジェフ千葉】J1昇格プレーオフ準決勝 名古屋グランパス戦プレビュー ~風間サッカーを切り裂く「ハイプレス&ハイライン」の刃・その切れ味をデータで考察する~
2017 J2リーグ J1昇格プレーオフ 準決勝
名古屋グランパス - ジェフユナイテッド千葉
2017/11/26(日) 16:00 K.O / パロマ瑞穂スタジアム
【公式】プレビュー:名古屋グランパスvsジェフユナイテッド千葉 J1昇格プレーオフ 準決勝 2017/11/26
おらがジェフユナイテッド市原・千葉、大逆転での昇格PO進出決定!!
【ジェフ公式】【ハイライト】11月19日(日) 明治安田生命J2リーグ 第42節 横浜FC戦
勝利を信じてはいましたが、PO進出を本当に成し遂げるとは...!!
この偉業を「奇跡」とするには、崖っぷちから這い上がって掴んだPO出場の権利を、J1昇格の権利に引き換えてこそでしょう。
そして、その引き換えが可能となるには、あと2勝必要です。
期せずして昇格PO最多出場となったおらがジェフ。過去の悔しさからPOの恐ろしさはチームもサポーターも身に沁みて分かっているはず。
他力から地力でJ1昇格を手にできる場所まで来ることができた。崖から這い上がって、地に自ら立てるところまで辿り着いたことは自信にしつつ、年間順位6位という事実は謙虚に受け止めてこのPOを戦えればと思いますね。
さて、26日のPO準決勝の相手は、41節で対戦した名古屋グランパス。
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【公式】ハイライト:ジェフユナイテッド千葉vs名古屋グランパス 明治安田生命J2リーグ 第3節 2017/3/11
【ジェフ公式】【ハイライト】11月11日(土) 明治安田生命J2リーグ 第41節 名古屋グランパス戦
遡ること2週間前、真っ赤に染まった完全アウェイの豊田スタジアムで蛍光イエローの我らがジェフユナイテッド・イレブンは、名古屋相手に中盤の攻防で終始圧倒。終わってみれば、3−0の圧勝を果たして、第3節の勝利と合わせてシーズン・ダブル。
年間80得点以上を記録する圧倒的攻撃力を擁するグランパスに未だ無失点というオマケ付き。
選手たちの躍動にベンチでエスナイデル監督が涙した、この試合の再現を望みたい...そんなPO準決勝を前回対戦時のデータ分析を通じてプレビューしてみたいと思います。
データはご覧の提供でお送りします。
まず、直近41節の試合を名古屋グランパスの視点から振り返ってみます。
圧倒的ボール支配を目指し、守備については志向(思考)せず攻撃サッカーを標榜する風間監督としては、ジェフ相手に3失点を喫してしまった事よりもゴールを奪えなかったこと、ボールを支配しきれなかった事を嘆いているかもしれません。
ただ、客観的事象として「守備」=自分たちがボールを持たない局面というのは、必ず生じてしまうもの(ポゼッション100%でない限り)。
ゴール前の崩ししかトレーニングしない(実際そうなのかは分かりませんが)、などと言われる風間サッカーでは、組織としての守備のセオリーを持っていないないのではないか...第三者はそんな風に思っているかもしれません。
そのところ、名古屋の守備ってぶっちゃけどうなのか、について下記図1で可視化してみました。
【図1】名古屋グランパス 守備アクションの対千葉戦とシーズン平均の比較
図1では名古屋の被攻撃時の守備アクションの指標をプロットしました。
棒グラフが被攻撃回数、折れ線は凡例の通りタックルとタックル成功によるボール奪回(ボールゲイン)、そして安全圏にボールを蹴り出すクリアになります。
比較軸として、左端にグランパスのシーズン平均、真ん中が第41節の千葉戦、右端が今季対千葉戦のJ2チーム平均をもってきました。
見方としては、左から「普段のグランパスの守り」、「グランパスの千葉戦の守り」、「J2チームの対千葉戦の守り」という感じです。
実は千葉はボール支配率が、今季J2で2位(1位は岐阜)。
意外にもグランパスはポゼ率がリーグ4位なのです(3位が徳島)。
つまり、千葉はボールを持てるチームなのです(この事実はアタマに入れておいてください)。
故に右端のグラフにある通り、千葉と対戦するJ2チームはというと、守備アクションのスタッツが自ずと高くなっています。被攻撃回数130回以上、それに対する守備アクションのプライオリティはまずはクリアで実に20%超え。
今季J2でジェフに相対したチームは、ジェフから受ける攻撃の5回に1回はクリアで逃げているのです。
では、グランパスはどうなのか。
シーズンアベレージでは、20%とまではいかないまでも被攻撃に対してはクリア、そしてタックルを行っているグランパス。
それが、41節の千葉戦ではガクンとそれら守備アクションの数値が下がっている。受ける攻撃の回数は、千葉戦もシーズン平均も変わりなく、本来「ボールを持てる千葉」と相対したとしても、そこまで押し込まれた感覚はないはずですし、データでもそうなっている。
でも、0-3というスコア以上にボールサイドの局面では終始劣勢に立たされ、90分に渡って千葉に圧倒的な差を見せつけられて敗れ去ったように思える(はず)。
さて、これはいったい...
【図2】ジェフユナイテッド千葉 守備アクションの対名古屋戦とシーズン平均の比較
図1と同じ可視化をジェフ千葉の場合でも作ってみたのが図2。
名古屋が千葉戦ではシーズン平均よりも守備アクションの数値が落ち、他の千葉と対してきたJ2チームより明らかに守備時のスタッツが下がっていたのとは対照的に図2をご覧いただければ分かるように、おらがジェフユナイテッド千葉はシーズン平均や他の名古屋と対戦してきたJ2チームより明らかに高い守備アクションのスタッツを記録しているのがお分かりかと。
著しく高いのは、「ボールゲイン率/ボール奪取成功率」です。
リーグ平均では、守備時アクションのプライオリティが、「クリア > タックル」という順になっているのが、名古屋戦はタックルのアクション試行率がクリアと同等程度(約20%)まで上昇。
タックルのアクションが普段よりも名古屋戦では多く繰り出され、さらにタックル成功率を掛け合わせてのボールゲイン/ボール奪取成功率は25%超えを記録。4回のタックルのうち、1回はボール奪回に成功している。
J2他チームの名古屋戦のアベレージよりも10%以上高いので、名古屋の選手からしたら千葉戦の被タックルは普段の体感よりもかなり嫌な感じではないでしょうか。
加えて、今季のジェフの真骨頂は奪うアクションにあるのではなく、奪ってから攻撃に転じる速さ。ボールを失ってから再奪回のアクションを行う、攻守の切り替えにおける速さと強さにあります。
ジェフがこれだけ高い確率でボール奪取に成功しているということは、その分名古屋が反転速攻を喰らう機会が増えているということ。
まず、この千葉の攻撃的守備(攻撃のための守備)に対する名古屋グランパスの対処/対策で無策だったことが、0−3の完敗を喫した名古屋グランパスの戦術的敗因と思われます。
【図3】ジェフ千葉✕名古屋グランパス パス・スタッツの対戦時変化
続いて、名古屋グランパスが風間監督の下で今季取り組んできたサッカーの根幹を成す、パスについてのスタッツは対千葉戦でどのように変化したのかを図3で可視化してみました。
千葉と名古屋、それぞれ左にシーズン平均、右に第41節のスタッツを記載。折れ線はそれぞれのパス成功率で、棒グラフは凡例にある通り、3つのパス指標を加工。
両チーム今季平均パス数を平均アクチュアルプレーイングタイムで割った「1分あたりのパス本数」、攻撃回数で割った「攻撃1回あたりのパス本数」、その差を取ったパス数を「ポゼッション回復のパス本数」としました。
もちろん1分どころか数秒のうちに攻守が入れ替わること、攻撃がすべてパスだけではないこと等のエクスキューズはありますが、おおよそ単位時間あたりどのくらいパスを回すチームか、攻撃時にどのくらいパスが繋がるチームかを見る指標と思っていただければ。
一見していただくと分かるように、グランパスの方がパス成功率もパス数も軒並みジェフよりも高い。
ただ、41節の対戦では互いにシーズン平均よりもパス成功率では下がっているものの、3つのパス指標では千葉にさほど変化がない一方、名古屋は右端の「攻撃1回あたりのパス本数」が4.7本から3.3本にダウン。
概算にはなりますが、攻撃時に5本繋がっていたパスが、3本しか繋がらないというのは、これまた名古屋の選手の体感としては、普段より相当思うようにいかないという感覚ではなかったでしょうか。
ここでの注目は実はジェフ千葉の方だと思っていまして、各パス本数はそのままにパス成功率だけ下がっていること。前述のボール支配率でリーグ2位(既出ですが名古屋は4位)のチームであるジェフが、パス成功率を犠牲にしつつも、攻撃時のパス数は変化させていない。
これは明らかに、ボール支配のためのパスではなく、攻撃のためのパス、ゴールに向かうパスを志向しているが故のパス・スタッツ構造だと思っています。
そうしたチョイスが何故可能なのか。
それは、トランジション/攻守の切り替えにおいて、名古屋を上回れたから。戦前の着想で言い換えれば、「ウチは間違いなく、名古屋に対して球際の戦いや攻守の切り替えの速さで上回れる!」と信じていたから。
シーズン序盤に「試合を支配する事」に拘っているように見えたエスナイデル監督の言葉の真意はボール支配ではなく、「ゲーム支配」にあったのだろうなと。
ボールを巡る争いを増やすこと、そしてその争いの局面で相手を圧倒すること。
そうした、ジェフの土俵に引きずり込んだからこその完勝だったのだろうなと。
互いに一歩も引かずに貫いたスタイルにおいても、ここでは千葉に軍配が上がった恰好に。
【図4】ジェフ千葉 攻撃の効率指標の対戦時遷移
【図5】名古屋グランパス 攻撃の効率指標の対戦時遷移
戦術面の噛み合わせ、チームスタイルの思想/発想で共に相手を上回ることができたジェフについて最後、戦略面での考察を。
図4と5は攻撃アクションの「歩留り率」の構造を可視化したもの。
千葉、名古屋、左からの並びは図1、2と同じです。シーズン平均の自分たち、41節における自分たち、右端は千葉、名古屋それぞれに今季対してきたJ2他チームの平均。
普段の自分たちはどのように攻撃し、千葉戦/名古屋戦はこのように攻撃し、J2全体では千葉、名古屋それぞれにどのように攻撃していったのか、という見方でよろしいかと。
数値の多寡は観ていただくとして、ここでの注目ポイントは構造のカタチにあります。
特におらがジェフユナイテッド千葉の対名古屋戦(真ん中)と、「J2チーム全体の対名古屋戦」(右端)の攻撃効率の構造、グラフのカタチです。
...なんか似ていませんか?
相手よりもポゼッションで圧倒し、 ボールを支配し続けることを志向する風間グランパスに対するJ2チームの攻撃セオリーは、ほとんどがカウンターになろうかと。
そんなJ2チームと攻撃のスタッツ構造が近似していた41節のジェフ。
ジェフは相手よりもボールを支配することができるにも関わらず(グランパスよりもね)、他のJ2チームと同じくカウンター攻撃型に切り替えられる柔軟性を持ち合わせていた。
加えて、今季チーム立ち上げ時(振り返れば去年の今頃)からハイプレス&ハイラインに取り組んできた事が奏功し、相手陣内でカウンターを掛けられるようになっている(前段から考察・ご説明している通り)。
ボールを保持し動かすことにも長けている事がさらに輪をかけて、ボール奪回からの即時カウンターにおけるボール前進、相手守備組織攻略の精度を高めているであろうことも述べておきたいと思います。
ボールを持てるけれども、その事に拘ることなく球際の戦い、攻守の切り替えの局面をあえて作り、そこで名古屋を圧倒することで、敵陣でのボールハンティングとショートカウンターの頻度を増やす事を貫いたジェフ。
グランパスはこれまで通りボールを保持し相手の守備組織を崩して攻める事に拘ったが故に、ジェフのプレスを掻い潜れずカウンターの餌食になった……
戦術とスタイル、そしてボールを巡る戦略的志向においても千葉が名古屋を上回ったの言えそうです。
【図6】予想スターティング・フォーメーション
とまあ、最終節の逆転劇で記憶から吹き飛んでしまいそうな名古屋との前回対戦を振り返ってみました。
ただ、昇格POはリーグ戦とは別物。
勝たなければ次は無い一発勝負、それも上位チームはドローでもよく、下位チームは勝たなければいけない変速レギュレーションの短期決戦でもあります。
シチュエーションは2週間前とは明らかに異なる。
ただ、お互い「負けられない」試合であることは変わらない。
ジェフは今季一貫して攻撃的スタイルを掲げ、ここに来てそのパフォーマンスが高次元になってきていることと、どこが相手だろうと攻撃し倒さなければ道は開けない6位というポジションもまた、余計な思惑がゼロとなる事からむしろ追い風になろうかと。
スタイルを曲げる訳が無いと公言するエスナイデル監督。
「いつも通り。自分たちがどうするか」と語る風間監督。
互いのスタイルがもう一度真っ向ぶつかり合うPO準決勝になるでしょう。
試合展開もおおよそ予想がつくでしょう。
ボールを保持してパスを繋いで攻めるグランパスと、それを破壊せんと敵陣深くからハイプレスしてハイラインに押し縮められた中盤の狩り場にボールを誘い込むジェフ。
上記までに見てきたようなデータが示すような展開になれば、ジェフの勝利が近づくはずですし、そこをグランパスが掻い潜ってさらに高みに昇る風間サッカーを見せつけてくるのか。
ジェフもグランパスもスタメンは大きく変わらないのではないかなと。
グランパスはシモビッチをスタートから起用し、寿人をトップの一角に上げてシャビエルを中盤のリンクマンにするのではないかなと。
ボールを保持しまくって守り切る考え風間監督には皆無でしょうし(守りきれるとも思えない)、ロングボールを蹴っ飛ばして千葉のハイプレスを回避してハイライン裏を攻略する事も無いのではないか...(主義/流儀を曲げることに)
ジェフもまた矢田が契約上の制約で出場ができないため、ボランチのセットはアンドリューと勇人という迎撃戦仕様最強の組み合わせになるでしょう。
グランパスが地上戦を仕掛けてくる限り、このふたりの防御網を掻い潜らなければグランパスはジェフ陣内にボールを前進させることが困難になろうかと。
故に寿人が中盤に降りたり、シャビエルがインサイドに絞るなど、田口&小林のボランチコンビを援護するムービングを挟んで、アンドリュー&勇人のボール・ハンティングの的を分散させてくるはず。
ジェフはこのふたりのボランチを引き出されてその背後にボールが入ると、CBが当たりに出ざるを得ず、さらにその釣り出されたCBの背後がデッドポイントになるので、グランパスはパスワークでそのシチュエーションを造らんと仕掛けてくるでしょう。
グランパスのパスワークの精度とスピードがジェフのプレッシャーの速さとパワーを上回るかどうか、その1点が勝負を分ける分水嶺になるでしょう。
中盤におけるボールを巡る「ドッグファイト」で名古屋がくぐり抜けるか、千葉が制するか。
グランパスがくぐり抜ければ、ハイラインの裏を取れるでしょうし、ジェフのボール・ハンティングに捕捉されれば2週間前のデジャヴになろうかと...
POはアウェイ戦となるジェフですが、ホーム・フクダ電子アリーナではパブリックビューイングが開かれるとのこと。
会場のパロマ瑞穂スタジアムにも大勢のジェフサポーターが駆けつけることでしょう。
また、千葉中央駅そばのウラチバダイニングEnyaさんでも観戦会が開かれる予定が。
また、自宅や出先でDAZNを視聴される方、またはリアルタイムでは試合を見られない状況にある方もおられるでしょう。
試合当日、皆さん様々な過ごし方をされることと思いますが、願いはただひとつ。
「大好きなおらがジェフユナイテッド千葉が勝利する姿が見たい」ということ。
選手らが抱き合って喜び、エスナイデルが高らかにガッツポーズをする姿を私たちサポーターはもっと見ていたい。
そんな光景が、今週末も観られることを祈って、日曜日のその時を迎えましょう。
例え離れていても、ジェフを思うみんなが各々の思いをひとつにできれば...
では、また!!