トラッキングデータで見る2016シーズンJ1クラブの"走り" ~走行距離とスプリント回数によるチーム比較~
昨夜はハリルJAPANがホームでアフガニスタンに5-0で圧勝。W杯最終予選に向けて着実にポイントを積んでますね。29日のシリア戦はグループ突破1位をかけての直接対決。良い結果を期待したいところ。
さて、本エントリは日本代表ではなくJリーグについて。
上記の通りロシアW杯 アジア二次予選の国際Aマッチ開催のため、J1リーグは中断。。週末は土曜にJ2リーグ、日曜日にナビスコカップのグループステージが開催となります。J1は4月1日の第5節から再開です。
まだ4節しか消化してないJ1リーグなのですが、このブログの最初のエントリでも書いたようにトラッキングデータ(走行距離・スプリント回数)でもってJリーグの様々な特徴を可視化していこうかなと。。その第1弾として、「走り」の面でJ1クラブを見ていこうと思います。
今回の分析・可視化は以下の2軸でJ1各チームをプロット。
【図1 走行距離 × スプリント回数 の軸クロスと特徴的チームのプロット結果】
昨年に開催されたJ リーグトラッキングデータコンテストに私が参加・登壇した際にプレゼンしたチーム走力の評価軸なのですが、走行距離(走りの量)とスプリント回数(走りの頻度・強度)のクロスによる4象限と両軸平均にいる特徴的なチームを布置したものです(データは2015年1stステージのもの)。
コンテストでは、この2軸で上記5チームの各自象限内における獲得勝ち点を計算し、リーグ平均との相対比較ではありますが、勝敗との関係を分析してみたのでした(図2)。
【図2 走行距離 × スプリント回数の軸クロスと勝敗の関係】
これで分かるのは、「(走力面における)自分の土俵で戦った試合でどのくらい勝ち点を稼げたのか」というもの。よって、当然ながら他チームを圧倒して走りまくったから勝ち点を稼げたという、走力と勝敗の絶対評価ではありませんので、あしからず。。
(昨年のコンテストの詳細は下記。今年も開催されるかな?)
さて、このトラッキングデータに関しまして、著名なアナリストである庄司悟氏が、ブンデスリーガと比較してJリーグは全然走っていないという指摘をしている記事があります。
記事の内容は、J1の2015年シーズンとブンデスの15-16シーズンの比較なのですが、確かにトラッキングデータ上では、ブンデスのそれと比較してJ リーグは明らかに走っていない、と。ただ、上記の記事でも単純に走りの多寡と勝敗との関連には言及しておらず、展開される試合の迫力や走りに対するチーム・選手のメンタリティについての言及が主です。
確かにブンデスとの比較では、Jリーグのチームが走っていないのは確かでしょう。それは、選手のレベル、タクティクスの面でドイツがサッカー先進国だから…というのもありますが、単純な選手のカタログスペックの違い(欧米人とアジア人の違い)も大いにあるでしょう。
では、同じJ リーグでも前季と比較して今期はどうか?という問いに言及してみようというのが、本エントリの本題(前フリ、長くてスンマセン)。
ということで、前出の2軸クロスでの2015シーズンと今シーズン(4節までですが)のプロットを以下に。
【図3 J 1 2015シーズン1stステージ 走行距離 × スプリント回数 軸の各チームプロット】
【図4 J 1 2016シーズン1stステージ 走行距離 × スプリント回数 軸の各チームプロット】※第4節終了時点
見てもらえば分かるように、走行距離・スプリント回数の両スケールは揃えています。赤点線がそれぞれのリーグ平均。降格、昇格チームは前季と比較ができませんが、それでもリーグ平均(赤線)を見てみても明らかに前季より走ってますね。
矢印マークを書き入れてますが、前季と比較して走行距離にして+4km、スプリント回数にして+11回(ちなみにスプリント回数の定義は、時速24km/h)、それぞれ平均値が上がっています。
湘南がぶっちぎりで右上に布置してますが、名古屋、マリノス、川崎Fはほぼ昨季と同じ象限に。FC東京は城福さんに監督が変わって少し走るようになったのか?
まだ4節までのデータなので、一応昨季の4節終了時点のものも下記に。
【図5 J 1 2015シーズン1stステージ 走行距離 × スプリント回数 軸の各チームプロット】※第4節終了時点
これで見ても、2016シーズンはチームの分布が右上に移動していることが分かります。
では、どのチームが走行距離、スプリント回数で量・頻度ともに伸びたのか、昨季1stステージ平均との差分ランキングを下記に。
【表1 走行距離・スプリント回数 2015→2016 平均値差分】
降格・昇格チームはデータがないので、除いています(トラッキングデータは、J 1のみ公表)。太字のチーム名のところは監督が変わったチーム。見ていただくと、昨季より下がっているのは新潟のスプリント回数のみ。他は全チームが量も頻度でも昨季を上回っている(まだ4節だけど)。
これから気温も上がり、走りの強度を維持しにくい季節になるので、各チームこのままの水準で推移するとは考えにくいですが、前季4節までのデータと比較しても、今季は明らかに各チームともよく走っていることが分かります。
なかでも、湘南のスプリント回数+45回が突出しています。フィールドプレイヤー10人として、一人あたり4~5回は頻度多くスプリントしているということに。
また、走行距離では鳥栖が+7kmという伸び。昨季、FC東京を指揮していたフィッカデンティ監督が今季から就任したわけですが、昨季のFC東京はリーグ平均とほぼ同じ水準の走力で、むしろ平均よりも走らない省エネの試合では無敗で1stステージを終えていました。
指揮するチームが変われば当然選手も変わるわけで、選手の特徴が異なれば用兵、タクティクスも変わる。鳥栖を走るチームに変えたのが、昨季どちらかというとあまり走らないチームの指揮官というのも興味深いですね。
ただ、このトラッキングデータの盲点は、各走りの量やスプリントの頻度が攻守どちらに割かれたものかが分からないとう点。ポゼッション時に多く走っているのか、逆に守備時に走らされたものなのか。スプリントにしても攻撃時に繰り出されたものなのか、被カウンター時に自陣方向へ帰陣する際に後走してのものなのかが色分けできていない。
これは、トラッキングデータ収集のテクノロジー進化を待つしかないのかなと思いますがどうでしょうか。。(ポゼッション率を掛けるというやり方もあるけど、大雑把すぎるかと。。)
この走力に関しての考察は、引き続き注目していこうかと思います。1stステージ終了時に昨季と比較してみて果たしてどうか。
走行距離×スプリント回数の軸とパス成功率、シュート数・ゴール数といったアタッキングに関する数値や、タックル数、クリア数などの守備に関するデータを重ねてみると、走りの多寡とどう関係してくるかが分かるかと。
ゆくゆくは勝敗と結びつけることで、走りと攻守のプレー、勝敗とが線で結ばれてより面白いアナリティクスになるのかなぁと思います。時間が許す限り、そのあたりにはチャレンジしていきたいな、と。。
なかなか自前でデータを集めるのはしんどいのですが、何とか続けてみようかと思います。J 2についても見てみたいし、ナショナルチームでも見られたら面白いかも。
(今年はEUROあるし、UEFAのサイトでデータ漁ってみます…)
では、また!